製菓の専門学校と短大、学費はいくら違う?4校を回って分かった「表に出ないお金」

「パティシエになりたい」と娘が言い出したのが、高校2年の春でした。
高校1年の夏から、東海地方の製菓の学校を4つ回ってきました。短期大学がひとつと、専門学校が3つ。初回は親子で行きましたが、2回目からは本人が「好きなお菓子を作る回」を選んで、ひとりで出かけています。もらってきたパンフレットを食卓に並べて、学費のページを開いたところで手が止まりました。
どこも、ほぼ同じ金額だったんです。
| 学費表に印刷されている金額(2年間・入学金込み) | |
|---|---|
| 短大A | 283万7,808円 |
| 専門B | 286万円 |
| 専門C | 297万円 |
| 専門D | 270万円 |
いちばん安い学校といちばん高い学校で、差は27万円。2年間で約300万円ですから、誤差のようなものです。「じゃあ、何を基準に選べばいいの?」というのが、正直な気持ちでした。
そこから資料を読み込み、4校すべてに電話をかけて、ようやく分かりました。比べる場所が、違っていたんです。
この記事では、学校名は伏せてA〜Dと書きます。数字は2026年8月時点で各校の資料に印刷されていたもの、または電話で確認したものです。金額は改定されることがあるので、必ずご自身でも確認してください。
結論:学費表を並べても、比べたことにはならない
先に結論から書きます。4校を並べ直して分かったのは、次の4つでした。
1. 学費表に載っていないお金を足すと、27万円だった差が43万円に広がる
2. 入学前に用意する現金が、10万円の学校と90万円の学校がある
3. 学費の免除は「金額」ではなく「何年ぶんか」で倍ちがう
4. 同じ2年間・同じ約300万円でも、国家資格が手に入る学校と、手に入らない学校がある
ひとつずつ書いていきます。
1. 表に載っていないお金を足すと、差は43万円になった
学費表に印刷されているのは、授業料・実習費・施設設備費といった「学校に納めるお金」です。ところが実際には、道具代、制服代、教科書代、研修費が別にかかります。そこを電話で全部聞いて、足し直しました。
| 学費表の数字 | 実際にかかる総額のめやす | |
|---|---|---|
| 短大A | 283.8万円 | 約301万円 |
| 専門D | 270万円 | 約302〜312万円 |
| 専門B | 286万円 | 約325万円 |
| 専門C | 297万円 | 約344万円 |
表の上では27万円だった差が、43万円に広がりました。順番も変わります。
内訳の例をあげると、道具・制服・教科書に相当する費用は、短大Aが約14万5千円、専門Bが約22万円(初年度のみ)、専門Cが40〜50万円(2年間)、専門Dが30〜40万円(2年間)でした。この時点で、すでに30万円以上の開きがあります。
しかも専門Dは、今年度からタブレットかノートパソコンが必須になったそうです。短大Aと専門Cは不要(専門Cは「手書きの学生が多い」とのこと)。パソコンが要るか要らないかだけで、5万円から15万円の差になります。どの学費表にも、この行はありません。
「実習費」を並べて比べても意味がなかった
調べていて、いちばん驚いたのがこれです。
短大Aの「製菓実習費」は、2年間で18万6千円。専門3校は同じ実習費が64万円から78万円で、4分の1しかありません。ところが短大Aのパンフレットには「毎回、ひとり1ホールずつケーキを仕上げて持ち帰ります」と書いてある。ひとりで1台つくるなら、材料は人数分いるはずで、安いはずがない。
学校に電話して聞いたら、答えはこうでした。
「材料費は、教育充実費のほうに含まれています」
つまり、費目の名前が同じでも、中身が違うんです。「実習費」という欄だけを取り出して比べても意味がなく、総額でしか比較できない。パンフレットの表を見比べて安心していた自分が、ちょっと恥ずかしくなりました。
2. 入学前に用意する現金は、10万円から90万円まで開く
総額よりも、家計に直接ひびくのはこちらです。「合格してから入学までに、現金でいくら必要か」。
| 入学前に用意する現金 | 内訳 | |
|---|---|---|
| 専門D | 10万円〜91万円 | 制度を使えば入学金10万円のみ/使わなければ分納で91万円 |
| 短大A | 75万5,000円 | 11月に入学金20万円、12月に前期学納金55万5,000円 |
| 専門C | 82万5,000円 | 入学金16万円+授業料等(入試日の約3週間後と1月) |
| 専門B | 84万円 | 入学手続き時に一括 |
同じ「約300万円の学校」なのに、高校3年生の冬に用意する現金が8倍以上ちがいます。
奨学金が振り込まれるのは、進学した年の5月から
ここが、いちばん知っておいてほしいところです。
日本学生支援機構の奨学金は、高校3年の春に予約採用を申し込み、初回の振り込みは進学した年の5月です。ところが入学金を払うのは11月、前期の授業料は12月から1月。
つまり、いちばん現金が必要な時期に、奨学金は1円も使えません。
国の教育ローンという手段もありますが、ある学校の資料には「秋以降は申し込みが集中し、審査に2週間以上かかることがある」と書かれていました。動くなら早いほうがいい、ということです。
「入学金10万円だけ」には、正反対の2種類がある
専門Dには、入学手続き時に入学金10万円を払うだけで入学できる制度がありました。2024年入学者の69.1%が利用しているそうです。ただ、よく読むと中身が2種類あります。
| 仕組み | 返済 | |
|---|---|---|
| 初期費用軽減&学費分割制度 | 日本学生支援機構の第二種(有利子)を月11万円借りて学費に充てる | あり |
| 給付奨学金&学費納入制度 | 高等教育の修学支援新制度の給付奨学金と授業料等減免でまかなう | なし |
前者は「借りる」制度です。月11万円を2年間で264万円。卒業して7か月目から返済が始まり、20年かけて返していく計算になります。利率2.922%(2026年5月時点の利率固定方式)で試算すると、返済総額は約349万円、利息だけで約85万円でした。
後者は「もらう」制度なので、返済はありません。しかも入学時に納めた10万円は、減免が決まったあとに学納金へ振り替えられます。
どちらになるかは世帯収入で決まり、併用はできません。同じ「入学金10万円だけで入れます」でも、意味が正反対です。ここを確かめずに「安い」と判断するのは危険だと思いました。
念のために書いておくと、これは悪い制度ではありません。手元にまとまったお金がない家庭でも進学できる、とても大事な仕組みです。ただ、その値段が85万円だと知ったうえで選ぶのと、知らずに飛びつくのとでは、まったく違います。
3. 免除は「金額」ではなく「年数」で倍ちがう
4校とも、学費を免除したり給付したりする制度がありました。パンフレットには「1年間の授業料を免除」「授業料50%減免」「最大100万円免除」と、どれも立派な言葉が並んでいます。よく読むと、年数が違いました。
| 最大の減免・給付額 | 年数 | 何で決まるか | |
|---|---|---|---|
| 短大A | 138万円(S100)/69万円(S50) | 2年 | 世帯収入と成績。S50は世帯収入841万円以下 |
| 専門B | 71万円(1カ年の授業料) | 1年 | 10月の試験と面接の結果のみ。家計基準なし |
| 専門C | 最大80万円(すべて給付・併用可) | 都度 | 入試の種類、保有資格、特待生試験 |
| 専門D | 100万円(SS特待生) | 2年 | 出願方法により、面接・実技・筆記 |
専門Bの71万円は1年ぶん。短大Aは年34万5,000円ですが2年間なので合計69万円。1年あたりの金額は専門Bのほうが大きいのに、年数で逆転します。
決まり方もバラバラです。世帯収入で決まる学校、10月の試験の結果だけで決まる学校、持っている資格で上乗せされる学校。
共働き家庭が見落としやすいポイント
収入で決まるタイプは、判定の方法まで確認したほうがいいです。短大Aに聞いたところ、判定に使うのは源泉徴収票の「支払金額」の欄、つまり額面で、共働きなら夫婦を合算するとのことでした。
たとえば年収500万円と350万円の夫婦なら合算で850万円。S50の基準(841万円以下)をわずかに超えて、対象外になります。
逆に、家計基準がまったくない学校もありました。専門Bの奨学生入試は、10月の試験(国語と面接)の結果だけで決まります。「うちはどうせ所得的に無理」とあきらめている家庭ほど、こちらを知らないのではないかと思います。
なお短大Aの減免は2年間ですが、2年目に評定3以下になると打ち切りだそうです(「出席日数がよほど足りないなどでなければ、継続できる人がほとんど」とのことでした)。
4. 辞退したときにお金が返るかどうかも、学校で違う
併願を考えているなら、ここは必ず確認してください。
| 返金の条件 | 期限 | |
|---|---|---|
| 短大A | 他大学との併願が可能な選抜で手続きした人のみ、入学金を除いて返還。専願は原則なし | 3月31日(消印有効) |
| 専門B | 一般入試(特別奨学生を含む)のみ、入学金を除いて返還。AO・推薦は対象外 | 3月31日 午後1時 |
| 専門C | 専願・併願とも、入学金を除いて返還 | 専願2月18日/併願3月18日 |
| 専門D | 入学金・選考料を除いて返還 | 3月31日 |
並べて見えたのは、早く決まる入試方式ほど返ってこない、という形でした。
短大Aは、製菓コースの定員40名のうち30名が専願の枠(総合型20名+推薦10名)です。この枠で年内に合格した場合、11月に入学金20万円、12月に前期学納金55万5,000円を納めることになりますが、あとで気持ちが変わっても、原則として返ってきません。
専門Bも同じ構造で、入学手続き時に84万円を納める学校ですが、返還の対象は一般入試だけ。AOと推薦は対象外で、入学した人の半分以上がAOです。しかも期限は3月31日の午後1時。「これを過ぎたら、いかなる理由があっても一切取扱いしません」と明記されていました。
年内に決まるのは安心です。でも、その安心の値段が、学校によっては数十万円になります。
5. 300万円払っても、国家資格が付くとは限らない
製菓の学校で目指す国家資格が、製菓衛生師です。ここが、4校でいちばんはっきり分かれました。
| 製菓衛生師 | 備考 | |
|---|---|---|
| 短大A | 2年次の夏に受験 | 今年の2年生は全員合格。受験料は自己負担(愛知県は10,600円) |
| 専門B | 2年次の夏(8月)に受験。受験資格は1年修了時に得られる | — |
| 専門C | 2年次の夏に受験 | 合格率は2023年・2024年が100%、2025年が96.8%(全国平均は70%前後) |
| 専門D | 学校の授業だけでは取れない | 姉妹校の通信課程を併修する形。費用は1年次27.5万円+2年次17.5万円=計45万円(学費とは別) |
短大Aの「今年の2年生は全員合格」は、これはオープンキャンパスで教えてもらった数字です。パンフレットには書かれていませんでした。専門Cも同じで、合格率のグラフはパンフの中にありました。聞いてみないと出てこない情報は、思っているより多いです。
そもそも製菓衛生師は、都道府県知事の指定を受けた養成施設で1年以上学ばないと受験できません。学校に聞いたところ、この指定を受けるには学生の人数に対して実習室の広さや設備が足りているかといった条件があり、どの学校でも取れるわけではないそうです。受験はどの学校も2年次の夏で、合格発表はその年の秋になります。
専門Dで製菓衛生師まで取ろうとすると、総額は約347〜357万円になり、4校でいちばん高くなります。そして電話で聞いたところ、実際に併修している学生は200名中10名以下だそうです。つまり、ほとんどの学生が製菓衛生師を持たずに卒業しています。
これは学校の良し悪しではなく、進路設計の違いだと思います。専門Dはカフェやブライダル、店舗運営に強い学校で、国家資格より現場力という思想です。ただ、パンフレットの「目指せる資格」欄だけを見た親と、実態とのあいだには、大きなギャップがあります。
パンフレットの資格欄は、そのまま読むと間違える
短大Aのパンフレットには、国家資格が3つ並んでいます。製菓衛生師、菓子製造技能士、パン製造技能士。3つも取れるのだと思いますよね。
聞いてみたら、在学中に受験できるのは製菓衛生師だけでした。あとの2つは「卒業すると受験資格が得られる」もので、卒業後に自分で実技試験を受けに行くものです。
資格欄を見るときは、「その資格は在学中に取れますか。それとも卒業後に自分で受けるものですか」と聞くのが確実です。
海外研修は4校ともあった。金額を書いていたのは1校だけ
パンフレットの目立つところに必ず載っているのが、海外研修です。4校すべてにありました。
| 内容 | 費用 | |
|---|---|---|
| 専門C | パリに1週間(去年)。コルドン・ブルーで実習体験と自由行動 | 40〜50万円 |
| 短大A | パリ8日間 | 51万1,000円+空港使用料・空港税3万1,730円 |
| 専門B | フランスとベルギーに11日間 | 約58万円〜 |
| 専門D | フランスかイタリアに1週間 | 70万円〜 |
同じ「海外研修あり」でも、最大30万円ちがいます。そして4校とも、パンフレットには金額が書かれていませんでした。短大Aの51万1,000円が分かったのも、オープンキャンパスに行ったときに、学生向けの参加者募集の張り紙が貼ってあったからです。残りの3校は「別途徴収」「費用は別」とだけ書かれていて、電話で聞いて初めて分かりました。
参加人数も聞きました。短大Aは毎年20人前後、専門Bは前回25〜30名、専門Cは去年40人(うち製菓が30人)。専門Dは少し事情が違って、大阪や東京にある系列校とまとめて募集をかけるため、全体では100名弱が参加し、そのうち名古屋の校舎からは20〜30名だそうです。どこも希望制です。
ちなみに短大Aの51万1,000円には、モンサンミッシェルなどのオプショナルツアー(3万円〜)は含まれません。空港税と合わせると、実質57万円ほどになります。専門Cは入学後に旅行会社経由で毎月積み立てる仕組みで、一括で用意しなくていいのはありがたい設計だと思いました。
学費表に出ない、小さな出費
細かいけれど、2年間で積み上がるものも聞いておきました。
・持ち帰り用の箱と保冷剤:専門B・C・Dは自前(使い回している学生が多いそうです)。短大Aはラッピング・保冷剤・箱まで学校が用意してくれます
・道具の買い足し:短大Aは「基本なし」。包丁も製菓道具代(5万5,000円)に含まれ、鍵付きケースで持ち運ぶそうです
・教科書代:短大Aは2年間で2万130円。うち「選択」は製菓衛生師を受験する人向けですが、ほとんどの学生が受験するので実質必須です
・追加徴収:専門Cの学費表には「水道光熱費・実習関連費用等、社会経済情勢に応じて追加で徴収することがあります」という一文がありますが、電話で聞くと過去に実際の徴収はないとのことでした
実習の中身は、聞き方を揃えないと比べられない
各校が掲げている実習量の数字は、単位がバラバラでした。短大Aは「2年間で1,000時間・つくるお菓子は200種類」、専門Bは「2年間で2,400時間以上」、専門Cは「2年間で1,980時間」、専門Dは「2年次は総授業の約100%が実習・演習」。
時間、種類、比率。これでは並べようがありません。
そこで「実習は一人1台ですか、班で1つですか」と全校に聞いてみました。
専門3校の答えはそろって「1人1台のときもあれば、内容によっては班で作ることもある」でした。「毎回ひとり1ホールを仕上げて持ち帰る」と言い切ったのは、短大Aだけです。
実習量を比べたいなら、「一人で1台を最初から最後まで仕上げるのは、2年間で何回ありますか」と聞くのがいちばん確実だと思います。
学校に聞いてよかった質問リスト
最後に、実際に電話して「これは聞いてよかった」と思った質問をまとめます。オープンキャンパスでも使えます。
・入学までに現金で用意する額は、いつまでにいくらですか
・入学を辞退した場合、返ってくるお金と期限を教えてください
・材料費はどの費目に入っていますか。別に集める材料費はありますか
・実習は一人1台ですか、班で1つですか。作ったものは持ち帰れますか
・パソコンやタブレットの個人所有は必要ですか
・その資格は在学中に取れますか。卒業後に自分で受けるものですか
・免除や特待生は何年ぶんですか。2年目に条件はありますか
・海外研修は参加する場合いくらですか。空港税や保険は別ですか。去年は何人参加しましたか
まとめ:学費表は「これだけ必要です」の表ではない
4校のパンフレットを並べて分かったのは、学費表は「これだけかかります」の表であって、「これだけ必要です」の表ではない、ということでした。
そこに書いてあるのは、学校が受け取るお金です。いつ用意するのか、免除は何年ぶんか、材料費がどの欄に入っているのか、資格が本当に手に入るのか。親が知りたいことは、ほとんど書いていません。
そして各校とも、自分の得意な単位で数字を出しています。時間で語る学校、種類で語る学校、比率で語る学校。そのままでは比較になりません。たぶん、比べられないように書いてあるのだと思います。
だから、全部の学校に同じ質問をする。それしかありませんでした。この聞き方に変えてから、話がぐっと具体的になりました。
パンフレットは、比べるための道具ではありません。比べる道具は、自分でつくるしかない。それが、この夏いちばんの収穫でした。
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